2019/09/02
これはとある星の森の中にある動物病院のお話です。
この星には人類がいないので、概念として地球人の呼称等を借りる場合があります。
バタバタと騒がしい一人の雌羊が生活習慣病の治療のため、お勉強入院してきました。
同室には「牛さん?」と間違えそうな大きな大きな雌羊さんがいました。
とても穏やかな目をした優しい声の大きな大きなエルちゃんを新入りのバタバタ羊のオーちゃんは一目で気に入りました。
遠いカノ森からダイエット入院のためにコノ森の病院に入院したと言うエルちゃんは、アウェイ感からか少し引っ込み思案に見えました。
一方のオーちゃんは地元のコノ森の住人特有の明るいノリでグイグイ行きます。
たまたま同じ年齢だったこともあり、オーちゃんとエルちゃんはすぐに仲良しになりました。
エルちゃんのお仲間の雌リスのリンちゃんにも紹介してもらって、オーちゃんは快適なお勉強&治療生活をスタートできました。と言ってもオーちゃんは、お勉強入院なので1週間しか病院にはいませんでしたが。
オーちゃんの退院の1日か2日前、エルちゃんは言いました。
「オーちゃんのおかげでとても楽しい日々を過ごせたのに、もうすぐお別れなんてさみしいわ。」
オーちゃんも感動して言いました。
「エルちゃんも『モシモシ(スマホのような物:以降スマホ)』持ってるでしょ。『オハナシ(ラインのような物:以降ライン)』交換する?」
「えー。いいの?遠慮して言い出せなかったの。」
ということで二人は無事ラインでつながりました。
オーちゃんの退院の朝、エルちゃんはエレベーター前まで見送ってウルウルしていました。
『素敵なお友達ができた』とオーちゃんはとても嬉しかったのです。
オーちゃんの退院後も二人は「おはよう」「おやすみ」ラインを欠かさず、お互いに励ましあって楽しく過ごしていました。
ある日ふとオーちゃんは思いました。退院後も自分なりに節制してるし、イドウ(マイカーみたいなもの)ならお魚の家(水族館のようなもの)に行けるかも。エルちゃんはコノ森をとても気に入っているけど病院を出たことがない。日曜日の午後なら外出許可をもらって、マイカーでエルちゃんを水族館に連れて行ってあげられるかも。
家の人(家族のようなもの)に相談すると、マイカーで連れて行ってくれると約束してくれました。
早速、オーちゃんはエルちゃんに連絡して、エルちゃんの退院前の日曜日に行こうと決まりました。
水族館が大好きというエルちゃんは、じっくりと写メを撮っています。オーちゃんは椅子を見つけては座ってしまっていました。家の人は二人を見失わないようにするのが精一杯でお魚どころではありませんでした。
めちゃめちゃ疲れたけれどカノ森のエルちゃんにコノ森の自慢の水族館を案内できてオーちゃんは幸せでした。
翌朝も「おはよう」ラインを交わして、楽しい余韻に浸っていると、オーちゃんは『ガーン!』と後頭部を殴られます。実際に殴られたわけではないけれど、それ以上の衝撃に襲われました。
「昨日あんなによくしてもらったのにお恥ずかしい話だけれど、、、。」から始まりエルちゃんは一気に語りました。
自分には両親も親戚もなく、友達もいない。
30年間お役所勤めをして早期退職で念願の介護の仕事に就いた。退職金は家のローンに当ててしまい、退院後の手術費用は確保しているものの、今月分の入院費が10万足りない。夫がいた頃に苦労したのでサラ金には借りたくない。頼れるのはオーちゃんしか居ないんです。
オーちゃんは目の玉が飛び出るくらい驚きました。
そして、ずらずらと書き連ねられた連絡先をコピペして、送りつけられた免許証の写メの裏表を保存してじっくりと返事を考えました。
わたしには借金があり、早く完済したくて月々の返済額をアップしたところでとてもそんな余裕はないと。
そして、病院に相談して足りない分を待ってもらうことにしろとアドバイスしました。
それが無理なら手術代を入院費に流用しておいて、翌月下りるという保険代で補填すればいいじゃないかと。
借りられないとわかったエルちゃんはこれまたびっくりするくらいあっさりと引きました。
「本当に恥をさらしてしまって恥ずかしい。この話は秘密で。」だと。
納得いかないオーちゃんは翌日も食い下がります。
「足りないお金、どーなったのー?」
「大丈夫。なんとかするから。ありがとう。」とエルちゃん。
「借金を申し込まれた身としては、どーなんとかするのか知っておきたい。」とオーちゃん。
「まさか、(雌リスの)リンちゃんに借りたんじゃないでしょうね?」とオーちゃんが聞くと、
「リンちゃんにはあっさり断られた。笑笑」とエルちゃん。
『笑笑』? こいつ頭おかしい!とオーちゃんは激怒しました。
でも、エルちゃんの退院までは挨拶ラインは続けてみようとオーちゃんは思いました。
もしかしたら本当に頭のネジが緩いだけの人なのかもと期待したかったからです。
エルちゃんは、無事?退院してカノ森へ帰って行きました。
「今頃は、列車の中で駅弁とビール中かな?」と送ったジョークは図星だったようです。
それよりも退院時に何かをやらかしたのか、やらかした何かがバレたのか、看護師長さんに
「もう2度と来ないでください。」とエルちゃんは言われたそうです。笑
そしてリンちゃんとも連絡がつかなくなったとエルちゃんはオーちゃんに訴えかけてきました。
何をやらかしたのかはいくら聞いても退院のアンケートにいいことを書かなかったからとしか答えませんでした。
その翌日、リンちゃんと連絡がついたとエルちゃんは嬉しそうにオーちゃんに報告しました。
「退院の時はもう戻って来ないで。」と言うらしいとリンちゃんから聞いたと。
オーちゃんはエルちゃんに『お願い』をしてみました。
リンちゃんはコノ森の人なので、また何かの会合で会えるからとオーちゃんは連絡先の交換はしてませんでした。
「会合のことで先輩のリンちゃんに聞きたいことがあるから、わたしのスマホの番号をリンちゃんに伝えてほしい。」と。電話をかけるかけないはリンちゃんの自由です。相手の番号を教えて欲しいと言うのはアウトだからこちらの番号を伝えてくれるだけでいいからと。
その日の夜、一向にリンちゃんに番号を伝えてくれたかどうかの話が出ないのでオーちゃんはエルちゃんに言います。
「リンちゃんから電話なかったわ。会合一人で行くのは嫌だから申し込みしなかった。」と。
「あ、心配かけてごめん。『退院の時はもう戻って来ないで。』ってみんな言うらしいの。」とエルちゃん。
「は?わたしのお願いは?」とオーちゃん。
「何だっけ?」とエルちゃん。
「了解です。よくわかりました。さようなら。」とオーちゃんは返しました。
「あー。リンちゃんのことね。確認しておくからー。」とエルちゃん。
頭にきたオーちゃんは最後の捨て台詞。
「あなたみたいな人をコノ森では、スンシャンと呼びます。男ならスンシャ君。寸借詐欺を辞書で引いてみて下さい。」
ピコピコうるさいのでオーちゃんはエルちゃんのラインをミュートします。
エルちゃんはとうとうライン通話をかけてきます。呼び出し音を放置してから、
「夜の電話は迷惑です。明日ラインします。おやすみなさい。」とオーちゃんはスタンプ、絵文字一切無しでラインを送りました。
翌朝、脳天気なおはようスタンプがエルちゃんからオーちゃんに届きます。
「おはようございます。用事中なので後でラインします。」とオーちゃんは返事します。
その間にオーちゃんが書いていたのは以下のお手紙です。
長文なのでノートにしました。ご一読いただければ幸せです。
わたしが何に一番怒っているかわかりますか?
人は誰でも自分中心です。そして誰でも自分のペースでしか生きられません。
でもね、自分にペースがあると言うことは、相手にもペースがあるんです。
あなたに友達が居ないと言うのは本当かもしれません。マイペースと自分の都合だけの人となんて誰だって関わりたくないものです。
水族館で家の人が無口だったのも「超マイペースな人」に呆れ、疲れ果ててしまったからです。それでもわたしは新しく出来たお友達があんなに喜んでくれて大満足でしたよ。
そんな楽しかった翌日にいきなりの借金の申し込み。
「あーー。そう来たのかー。」とショックでした。
お金があるとか無い以前に絶対貸さないと即決しました。
サラ金では借りたく無いとあなたのラインに有ったので、うちもサラ金の支払いがあることにしました。
わたしの座右の銘は、シェークスピアの
「誠実でない友があるよりも、むしろ敵があれ」です。
友達とは、楽しい時は共に笑い嬉しいことは共に喜び、悲しい時は共に泣く。
決して、お金を借りるための存在ではありません。
そして、わたしが本当に怒っているのは、自分の命がかかっているかもしれない入院中に安易に知り合いにお金を借りようとした事です。わたしやリンちゃんは病院で知り合った関係でしょ。
そんな人に借金しようと言う考えが非常識過ぎます。今回の入院と手術であなたが健康になってくれることを心から祈っています。でももしまたコノ森で入院しなければいけなくなったらどうするの?
もしかしたら、誰かに借りたにせよ期日に本当に返済できるのかもしれない。
でも、保険が下りるのが遅れたら?返済出来なかったら『詐欺師』となってしまいますよ。
それでも、厳しい入院生活を頑張った者同士として退院後もおはようとおやすみのラインはあなたが続ける限り続けていこうと思っていました。
わたしが昨日あなたに「お願い」したのは、リンちゃんにわたしの電話番号を伝える事でした。
向こうの番号を聞くのは失礼なのでこちらの番号を伝えて欲しい。ただそれだけです。
友達ができたと喜んでくださってるのに、わたしが手書きでお渡しした連絡先がすぐに出て来ないというのもショックでしたよ。
「誠実でない友があるよりも、むしろ敵があれ」
こんなにあなたに対して不信感を持ってしまったわたしはあなたの誠実な友であり続けることは不可能です。
敵になる必要はありませんが、元の入院中に知り合った人に戻ります。
どうかお幸せに。
既読がついたのを確認して、オーちゃんはエルちゃんをブロックしました。
そして独り言。
チッ!たかだか羊の分際で、、、。
キツネにでもなりたかったんかいな。
このオレ様を騙そうなんて100万年早いわ!
こちとらダイエット中ちゃうかったら、、、。ブツブツ。
そう言って、オーちゃんが羊の着ぐるみを脱ぐと、オーちゃんの名前通りの狼さんが、、、。
お後がよろしいようで。(終)

